免許返納を説得できない…黙り込んだ80代の義母が2回目で決めた理由

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運転免許の返納を切り出され、黙り込む80代の母と息子

「まだ大丈夫だ」
そう言われて、話が終わってしまう。

あるいは、何も言い返してこない。
黙り込まれて、それ以上こちらも踏み込めない。
親の運転免許の話を切り出すたびに、同じところで止まってしまう方は少なくありません。

先にお伝えします。
「説得できない」ときの多くは、返納そのものに反対されているわけではありません。
返したあとの暮らしが想像できていないから、答えようがないだけ、ということがあります。

妻の母は80代で、2年ほど前に運転免許を返納しました。
最初に切り出したとき、返ってきたのは反論ではなく、沈黙でした。
返納が決まったのは2回目の話し合いで、決め手になったのは「危ないから」という正論ではありませんでした。

この記事では、そのときに何を話したのかを、順番どおりに書きます。
あわせて、返納の手続きや運転経歴証明書、車にかかるお金といった制度の部分は、警察庁・総務省・国土交通省の資料を一つずつ確認して整理しました。
私は交通や法律の資格を持つ専門家ではないので、数字と制度は必ず一次資料にあたっています。

この記事の30秒まとめ

  • 黙り込むのは拒否ではなく、「返したあとどうなるか」に答えが出せていないサイン
  • 義母が気にしていたのは「行きたいときに行けなくなること」。葬儀や少し距離のある友人宅など、日常ではない特別な外出だった
  • 安全が大事なのは本人も分かっている。それでも踏ん切りがつかないとき、車を持ち続ける費用とタクシー代を並べたお金の話が、決断の後押しになった
  • 先に足を用意してから返してもらう。うちは当面、義父が運転を続けた
  • 自主返納は全国で年43万5,067件。うち75歳以上が26万915件(警察庁・令和7年)
  • 残った車は「値がつかない」と思い込まないこと。10年以上乗った1500ccが30万円になった(金額は車と時期によります)
  • 運転経歴証明書は返納から5年以内に申請しないと交付を受けられない。交付件数は返納件数の7割ほどで、同時に申請していない人が相当数いる

免許返納を説得できないときの正体は、たいてい反対ではありません

免許返納の話に答えられず、窓の外を見る高齢の母

最初に義母へ免許の話をしたとき、返ってきたのは沈黙でした。
怒られたわけでも、理屈で言い返されたわけでもありません。
ただ、黙ってしまったのです。

あのときは「聞く気がないのだろう」と受け取りました。
でも、あとから振り返ると違いました。
返納したあとの生活が本人の中で像を結んでいないので、返事のしようがなかったのだと思います。

これは、けっして珍しい話ではありません。
警察庁の資料によれば、運転免許の自主返納(申請による取消し)は令和7年の1年間で43万5,067件ありました。
そのうち75歳以上が26万915件です。

運転免許の自主返納件数の推移(警察庁)

  • 令和元年 60万1,022件(うち75歳以上 35万428件)=これまでで最も多い
  • 令和5年 38万2,957件(うち75歳以上 26万1,569件)=いったん底を打つ
  • 令和6年 42万7,914件(うち75歳以上 26万4,916件)
  • 令和7年 43万5,067件(うち75歳以上 26万915件

※警察庁「申請による取消(自主返納)件数と運転経歴証明書交付件数の推移」より。令和5年を境に、2年続けて増加しています。

毎年40万人以上が、実際に免許を返しています。
つまり、返納した方が良いかもしれないと考えている人も多いが、その後の移動手段や生活サイクルが変わってしまうことへの不安があって、決断までたどり着けない人も多数存在するのではないでしょうか。

ジャズ
ジャズ

父も免許の話になると黙るんだよなぁ。怒られるならまだ話が続くのに、黙られると終わっちゃう

ロック
ロック

僕も義母のときそうだったよ。あの沈黙、拒否だと思ってたけど、たぶん答えが出せなかっただけなんだよなぁ

正直に書きます。うちの免許返納のタイミングは、事故のあとでした

高齢ドライバーの接触事故でこすれた車のバンパー

先に断っておきます。
この章は「防げなかった話」です。
事故が起きる前に話を動かす方法は次の章から書きますので、いま急いでいる方は読み飛ばしてもらって構いません。

ここは、格好をつけずに書いておきます。
義母が免許を返したのは、事故を起こしたあとでした。
先回りして守れたわけではありません。

車同士の接触事故で、けが人は出ませんでした。
大事にはならずに済みましたが、あれが人だったら、と考えるとぞっとします。
そして、その「ぞっとした」のは家族だけではありませんでした。

義母自身が、こたえていたのです。
2回目の話し合いで返納が決まったのは、本人の中にすでに迷いがあったからだと思います。
説得がうまかったわけではありません。

だから、いま「何度言っても返してくれない」と悩んでいる方に、責めるようなことは書けません。
まだ何も起きていない段階で親に免許を返させるのは、本当に難しいことです。

ただ、一つだけ言えることがあります。
事故が起きてしまうと、そこから始まるのは話し合いではなく後始末です。
相手のこと、保険のこと、そして本人の落ち込み。
同じ「免許を返す」でも、前と後ではまるで違う時間が流れます。

だからこそ、まだ何も起きていないうちに、話の切り口だけでも変えておく価値があります。
次の章が、その切り口です。

免許返納しない理由は「葬式に行けなくなる」でした

葬儀に参列するために玄関に用意された礼装のかばんと数珠

2回目に話したとき、こちらから聞き方を変えました。
「危ないから返してほしい」ではなく、「返したら、何が一番困る?」と聞いたのです。

まず出てきたのは、友人の葬儀に参列するときの足でした。
買い物でも、病院でもありませんでした。

80代になると、同世代の訃報が届きます。
そのたびに出かける先は、いつもの店や病院とは違って、行き慣れない場所です。
時間も決まっています。
あそこへ行くのに車がなかったらどうすればいいのか——それが、義母が黙り込んだ理由でした。
地方在住の義母の地域では、移動手段は自家用車が主流です。

ただ、あとから思うのは、葬儀はいちばん分かりやすい例として出てきただけだ、ということです。
本当に不安だったのは、行きたいときに行けなくなることそのものだったのでしょう。
少し距離のある友人の家に行く。
ちょっと足を延ばして買い物をする。
天気がいいから近場を見て回る。
どれも毎日のことではなく、車があったからできていた特別な外出です。
回数にすれば年に10回もありません。
それでも「あそこに行けなくなる」が、黙り込むには十分な理由だったのです。

これは、こちらからは見えない不安でした。
家族が思い浮かべるのは、たいてい毎日の買い物や通院です。
でも日常の買い物は近所で済み、通院はバスで行けます。
本人が心配していたのは、日常ではない、車でしか行きにくい特別な外出のほうでした。

切り出し方を変えるときの、たった一つの質問

✕「危ないから、そろそろ免許を返してほしい」
→ 安全の話は、本人が「自分はまだ大丈夫」と思っている限り平行線になります。

◯「もし返すとしたら、何が一番困る?」
→ 返納を決める話ではなく、困りごとを教えてもらう質問です。ここで出てきた答えが、そのまま次に用意すべきものになります。

高齢者が免許返納しない理由は、人によって違います

ここは誤解のないように書いておきます。
義母の口から最初に出たのがたまたま葬儀だっただけで、あなたの親が同じことを言うとは限りません。

畑かもしれません。
温泉かもしれません。
孫の家かもしれないし、行きつけの床屋かもしれません。

だから、ここで一般的な答えを並べても意味がありません。
答えは本人の中にしかないので、聞くこと自体が目的だと思ってください。
そして返ってきた答えを、次の章の紙に書き写します。

それでも免許返納に応じないとき、返ってくる3つの言葉

素直に答えてくれるとは限りません。
返ってきやすい3つのパターンだけ、先に書いておきます。

  • 「別に困らん」→ それなら話は早いです。「困らないなら、返しても平気ということだね」と、そのまま次に進めます。強がりであっても、本人が言った言葉なので引き返しにくくなります
  • 「お前には関係ない」→ その日は引いてください。ここで押すと、次に切り出せなくなります。目的は今日決めることではなく、来月もう一度話せる関係を残すことです
  • そもそも会話にならない→ 順番を変えます。同居している家族、兄弟、配偶者など、本人が普段いちばん耳を貸す人から先に話してもらいます。誰が言うかで、同じ話でも通り方が変わります

免許返納の説得方法は、正論ではなくお金の計算でした

車の維持費とタクシー代を書き出したノートと電卓

困りごとが分かったので、そこだけを解けばよくなりました。
私が義母に話したのは、こういう内容です。

車を持ち続けるかぎり、乗っても乗らなくてもお金は出ていきます。
出かけたいときにタクシーを使ったとしても、車を持ち続ける費用のほうが高くつきます。
しかもタクシーなら、行き慣れない場所でも道に迷いません。

義母が返納を決めたのは、この話をしたあとでした。
「危ない」ではなく、「そのほうが得で、しかも安心」という話にした瞬間に、前へ進んだのです。

免許返納の一番のメリットは安全だが、同時に乗らなくても出ていくお金が止まること

この話をするときは、あいまいな「維持費って高いよ」では効きません。
公的に決まっている固定費を、具体的に挙げて話すほうが伝わります。

乗らなくてもかかる、代表的な費用

  • 自動車税(種別割)=毎年4月1日時点の所有者にかかる都道府県税。総務省の税率表では、1,000cc超1,500cc以下の自家用乗用車で年34,500円(2019年10月1日以降に初回新規登録を受けた車は30,500円)
  • グリーン化特例による重課=初回新規登録から一定年数を過ぎた車は、自動車税の税率が重くなります(総務省)
  • 自動車重量税=車検のときにかかる国税。「13年経過」「18年経過」で税額の区分が上がる仕組みです(国土交通省)
  • このほかに車検の費用・自賠責保険・任意保険・ガソリン代、駐車場を借りていればその賃料

※金額は車種・年式・地域・契約内容で変わります。ここに挙げたのは「誰にでも必ずかかる部分」だけです。実際の総額は、届いている納税通知書と車検の見積書を見るのが確実です。

注目してほしいのは、古い車ほど税金が高くなる仕組みになっていることです。
長く大事に乗ってきた車ほど、持ち続けるコストは上がっていきます。
「もったいないから置いておく」が、実はいちばんもったいない、という話ができます。

そのうえで、本人が心配していた外出を並べます。
たいていの方は、買い物や通院までタクシーを利用しようとは考えません。
義母の場合も、買い物は近所で済ます、通院はバスでとは考えていました。

不安に思っていたのは言葉として出てきた「葬儀」などに行くとき、
また、少し距離のある友人宅へ行くときのことでした。

回数にして年に10回もあるかどうかということです。
全てタクシーを利用しても、たいていは車を1年持ち続けるほうが高くつきます。

この比較の目的は、正確な金額を出すことではありません。
「多めに数えても、車を置いておくより安いし、迷うこともなく安心」——そこまで見えれば、話は前に進みます。

数字で見せたほうが早い方には、こんな紙もあります

私はここまでする必要はないと思いますが、口で説明するよりも、数字で説明した方が理解が早い方もいらっしゃいます。
明確に数字が並んだ紙が一枚あるだけで、話は驚くほど早く進む場合もあります。
その場合は下記のような表を作成して、空欄を一緒に埋めてみるのも良いかもしれません。

車とタクシー、どちらが高いかを出す紙

車を持ち続けた場合記入欄
自動車税(納税通知書の額)     円
車検の費用(2年ぶんの見積 ÷ 2)     円
自賠責 + 任意保険(年額)     円
駐車場(月額 × 12)     円
ガソリン代(年額)     円
車の1年ぶんの合計(A)     円
返して、タクシーにした場合記入欄
葬儀・法事など(年 回 × 往復  円)     円
友人に会う・近場の外出(月 回 × 往復  円 × 12)     円
タクシーの1年ぶんの合計(B)     円

※自動車税の納税通知書や車検の見積書を利用すれば、金額を埋めやすいです。
※Bの回数は正確でなくて構いません。
※行の名前は、前の章で本人が答えた困りごとにそのまま書き換えてください。

数字はざっくりで良いと思います。
肝心なのは本人が納得することなので。

義母の場合は必要ありませんでしたが、父の時にはこの表が必要になりそうです。
車を1年持ち続ける必要があるのか、その一点に絞って話していこうと思います。

ジャズ
ジャズ

お金の話なら父も聞くかもしれない。安全の話はもう耳にタコができてるからなぁ

ロック
ロック

それに道に迷わないっていうのが効いたよ。義母は運転そのものより、知らない場所で迷うのが不安だったみたいでね

免許返納後の移動手段を先に用意してから、返してもらう

免許返納後の足としてバス停で時刻表を確認する高齢女性

計算だけで返納が決まったわけではありません。
もう一つ、先に用意したものがあります。
義父が、当面のあいだ運転を続けることにしたのです。

妻の両親は二人とも80代で、地方都市で暮らしています。
二人が同時に免許を返せば、家に足が一つも残りません。
そうなると返納は「安全のための決断」ではなく、「暮らしを止める決断」になってしまいます。

だから順番をつけました。
先に義母が返し、義父の送迎を当面の足にする。
それ以外の日常の移動は、バスと電車に切り替える。

「返して」と言う前に、埋めておく3つの欄

  • 日常の移動(買い物・通院)=バス・電車・家族の送迎・ネットスーパー・宅配
  • 年に数回の外出(葬儀・法事・少し距離のある友人宅など、車でしか行きにくい場所)=タクシー。ここを空欄のままにすると、本人はうなずけません
  • 急な移動(体調不良・呼び出し)=誰に電話すればいいかを決めて、番号を書いて渡しておく

※自主返納した方への支援は、自治体や事業者ごとに内容が違います。警察庁は、一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会が運営する「高齢運転者支援サイト」を案内しています。

免許返納で「足がない」地域は、市区町村の窓口が入口になります

ここまで「バスと電車」と書いてきましたが、それが使えない地域があります。
バスは1日に数便、駅までは車で何十分。
むしろ、そういう地域にお住まいの親ほど、免許を手放せずにいます。

その場合、探す先は路線バスではありません。
自治体が走らせているコミュニティバスや、予約して乗る乗合タクシー(デマンド型と呼ばれることもあります)が、まず候補になります。

それでも足りない地域のために、国の制度もあります。
自家用有償旅客運送という仕組みで、国土交通省の資料では、バス・タクシー事業者によることが困難な場合に、市町村やNPO法人などが自家用車を使って提供する運送サービスと説明されています。
受け取る対価は実費の範囲内と決められていて、営利事業ではありません。

バス・電車が使えない地域で、当たる順番

  • ①市区町村の窓口(高齢福祉・地域包括支援センター・交通担当)に「親の移動手段を探している」と電話する。コミュニティバス・乗合タクシー・タクシー券などは自治体ごとに違うので、ここが一番早い入口です
  • ②自家用有償旅客運送があるか聞く。市町村やNPO法人などが自家用車で運ぶ仕組みで、通院や買い物の足として使われています(実施の有無は地域によります)
  • ③社会福祉協議会にも、地域の送迎ボランティアの情報が集まっていることがあります

※どの制度が使えるかは市区町村ごとに大きく違います。ここは調べるより、住んでいる自治体に一本電話するほうが確実です。返納を切り出す前に、家族が先に聞いておくと話が早くなります。

正直に書きますが、うちもまだ途中です。
義父はもともと運転が好きで、今も運転を続けています。
いずれ同じ話をすることになりますし、そのときは義母のときより難しいだろうと思っています。

離れて暮らしていると、親の様子が分かるのは電話をしたときだけです。
免許を返したあとは外出そのものが減るので、なおさら見えにくくなります。
見守りの手段については、離れて暮らす親の見守りサービス4社を公式情報で比較した記事にまとめています。

免許返納を後悔するかと思ったら、義母は案外平気でした

免許返納後、縁側でお茶を飲む穏やかな表情の高齢女性

返納を切り出す前、いちばん心配していたのはここでした。
生きがいを取り上げるようで、落ち込ませてしまうのではないか。
そう身構えていました。

結果は、拍子抜けするほど平気でした。
もともと運転が好きで乗っていたわけではなかったからだと思います。
必要だから乗っていただけで、必要がなくなれば、それほど惜しくはなかったのでしょう。

ここは、人によって大きく違うところです。
運転が趣味だった人、仕事で長く運転してきた人にとって、免許は身分証以上の意味を持ちます。
だから「うちは平気だったから大丈夫」とは書けません。

ただ、一つだけ言えることがあります。
「落ち込ませてしまうかもしれない」という家族側の心配が話を切り出せない理由になっているなら、それは思っているより軽いことがある、ということです。
少なくともうちは、心配していた時間のほうが長くかかりました。

免許返納したら車はどうする。「値がつかない」と思い込まないでください

免許返納後にカーポートへ残された10年以上乗った車

返納が決まると、車が一台余ります。
ここを放っておくと、前の章で話した「維持費のほうが高い」という説明が、そのまま嘘になります。
名義が残っているかぎり、翌年の4月1日には自動車税の通知がまた届きます。

実は以前、失敗しています。
義父が仕事で使っていた車を手放したとき、中古車屋さんに来てもらって引き取ってもらいました。
そのときは、1円ももらっていません。

古いから値なんてつかないだろう、引き取ってもらえるだけありがたい。
そう思い込んでいたのです。

今回は、同じことをしませんでした。
私がインターネットで買取の見積もりを依頼し、2社に査定してもらいました。
10年以上乗った、装備も多くない1500ccの車です。

それが、30万円になりました。

▶ 動かない車・古い車でも無料査定(カーネクスト 公式サイト)

同じように「もう価値はない」と思っている車が、実際には値段のつく車だった、ということです。
違ったのは車ではありません。
査定を受けたかどうか、そして1社で決めなかったかどうかだけでした。

ただし、これは「古い車なら数十万円になる」という話ではありません。
査定額は車種・年式・走行距離・状態、そしてそのときの需要で大きく変わります。
お伝えしたいのは金額そのものではなく、聞いてみるまで分からないということです。

親の車を手放すときに、私が失敗から学んだこと

  • 「古いから値がつかない」は思い込み。10年以上乗った低装備の1500ccでも値段はつきました(※査定額は車種・年式・状態・時期で大きく変わります)
  • 1社で決めない。見積もりは複数から取る。金額に納得できなければ断って構いません
  • 査定は無料。いくらになるか聞いてから考えても遅くありません
  • 名義は親のままのことがほとんどです。売却には名義人本人の意思確認と書類が要るので、勝手に進めず、必ず本人と一緒に動いてください
  • 売るまでは税金と保険が続きます。4月1日をまたぐと、乗らない車にもう一年ぶんの自動車税がかかります

売ったお金は、そのまま返納後の足の予算になります。
「タクシー代が心配だ」と言っていた本人に、「この車が、そのタクシー代になるよ」と言えたのは大きかったと思います。
説得の材料は、実は本人の家の車庫にありました。

そして、動くなら早いほうがいい理由が一つあります。
自動車税は毎年4月1日時点の所有者にかかります(総務省)。
ここをまたぐと、もう乗らない車に、まる1年ぶんの税金がかかります。

返納の話がまとまったら、3月のうちに査定だけでも取っておく
売る売らないは、金額を見てから決めれば大丈夫です。

「うちのは動かないし、値なんてつかない」と思っている方へ

私が義父の車で失敗したのは、まさにここでした。
他社で断られた車や、引き取りに費用を請求された車でも、無料で引き取って買取価格をつける専門業者があります。
廃車買取のカーネクストは「どんな車も0円以上買取保証」を掲げていて、公式サイトには1997年式・走行26万kmの車が15万円になった買取実績も出ています。
引き取りも廃車手続きも無料で、来店も要りません。

▶ 無料査定を申し込む(カーネクスト 公式サイト)

※査定額は車種・年式・走行距離・状態によって変わります。金額に納得できなければ断って構いません。
※車の名義が親御さんのままの場合は、必ず名義人ご本人の同意のうえで進めてください。

免許返納の手続きと、忘れられがちな運転経歴証明書

運転経歴証明書の申請書に記入する高齢者の手元

手続きそのものは、身構えるほどのものではありません。
警察庁の案内によれば、運転免許が不要になった方や、加齢にともなう身体機能の低下などで運転に不安を感じるようになった方は、自主的に免許証を返納することができます。

ただし、注意点が一つあります。
免許の停止・取消しの行政処分中の方や、その処分の基準などに該当する方は、自主返納ができません。
申請できる場所や受付時間、必要な書類は都道府県によって違うので、住んでいる地域の運転免許センターなどに確認してください。

運転経歴証明書の交付は、返納件数の7割ほどしかありません

ここが、いちばんお伝えしたい実務の話です。
免許を自主返納した方は、「運転経歴証明書」の交付を受けることができます。
平成24年4月1日以降に交付されたものは、運転免許証に代わる公的な本人確認書類として使えます。

免許証を返すと、それまで身分証として出していたカードが手元からなくなります。
銀行の窓口でも、役所でも、免許証を出していた場面は意外と多いものです。
マイナンバーカードを持っていれば本人確認はそれで足りますが、免許証を身分証として使い慣れていた方には、その代わりになるのがこの証明書です。

いまは、マイナンバーカードに運転経歴の情報を記録する「マイナ経歴証明書」という形も選べます(警察庁)。
従来の紙の運転経歴証明書だけ、マイナ経歴証明書だけ、両方、の3つから選ぶことになります。
どれにするかは、返納の手続きのときに窓口で相談すれば大丈夫です。

ところが、警察庁の統計では、令和7年の運転経歴証明書の交付は29万7,359件でした。
同じ年の自主返納は43万5,067件です。

返納した年と申請した年がずれる方もいるので、これは厳密な割合ではありません。
それでも、返納と同時に申請していない人が相当数いることは、この差から読み取れます。
そして申請できる期間には、5年という区切りがあります。

運転経歴証明書で押さえておきたい3点(警察庁)

  • 自主返納した方、更新を受けずに失効した方が交付を受けられます
  • 申請は返納から5年以内に。返納後5年以上、または失効後5年以上が経過すると交付を受けられません。交通違反等により免許取消しとなった方なども対象外です
  • 平成24年4月1日以降に交付されたものは、運転免許証に代わる公的な本人確認書類として使えます。マイナンバーカードに運転経歴を記録するマイナ経歴証明書を選ぶこともできます

※申請場所・受付時間・必要書類・手数料は都道府県ごとに異なります。返納の手続きと同時に申請できるか、事前に各都道府県警察の運転免許センター等へご確認ください。

「5年」という期限があることは、あまり知られていません。
返納のときにまとめて申請してしまうのが、いちばん確実です。
返納の話がまとまったら、この一言だけは添えてあげてください。

よくある質問

Q1. 何度話しても「まだ大丈夫」。免許返納させるにはどうすれば

「まだ大丈夫」は、運転の腕の話をしています。
そこで議論を続けると、本人は自分の能力を否定されたと受け取るので、どうしても平行線になります。
腕の話をやめて、「返したら何が困る?」と聞いてみてください。
返ってきた答えを一つずつ埋めていくほうが、結果として早いです。

Q2. 家族が説得しても無理でした。警察や医師から言ってもらえますか

家族の希望どおりに第三者から返納を言ってもらえる制度は、ありません。
ただし、「まだ大丈夫」は本人の自己申告のままでは終わりません。
75歳以上の方は、免許を更新するときに制度として検査を受けることになっています。

更新のときに、制度が確かめてくれること(警察庁)

  • 認知機能検査=更新期間が満了する日の年齢が75歳以上の方は、認知機能検査等を受けなければならないとされています。通知は満了日の6か月前までに警察から届きます。結果は「認知症のおそれがある」「おそれがない」のいずれかで判定されます
  • 「認知症のおそれがある」と判定された場合は、公安委員会から連絡があり、臨時適性検査または診断書提出命令により医師の診断を受けることになります。認知症と診断されれば、聴聞等の手続を経て免許の取消しまたは停止となります
  • 運転技能検査(実車の検査)=75歳以上で一定の違反歴がある方は、これに合格しなければ更新を受けられません。対象は、更新前の一定期間に信号無視・速度超過・安全運転義務違反・携帯電話使用等などの違反をした方です
  • 75歳以上の方が信号無視等の特定の違反をしたときは、更新を待たずに臨時の認知機能検査が行われます

※認知機能検査は記憶力・判断力の状況を確認する簡易な手法で、医師が行う認知症の診断や医療検査に代わるものではない、と警察庁は明記しています。対象となる違反行為や検査の詳細は、住んでいる都道府県の運転免許センター等でご確認ください。

つまり、家族が説得できなくても、次の更新で制度が確かめます
だから今日できるのは、親の免許証を見せてもらって、更新の期限を確認しておくことです。
その半年前には検査の通知が届きます。

「次の更新のとき、検査があるらしいよ」と伝えておくだけでも、話の温度は変わります。
家族が敵になるのではなく、期限が先に来るからです。
認知症の心配がある場合は、更新を待たずに、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談してください。

Q3. 免許返納の特典(タクシー割引など)はどこで確認できますか

支援の内容は、自治体や事業者ごとにまったく違います。
警察庁は、一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会が運営する「高齢運転者支援サイト」を案内しています。
まずそこで住んでいる地域の支援を確認し、詳しい条件は自治体の窓口で確認するのが確実です。
特典だけで返納を決める人は多くありませんが、「返しても損ばかりではない」と示す材料にはなります。

Q4. 車の名義が親のままです。子どもが勝手に売れますか

売れません。
名義人本人の意思確認と、印鑑証明などの書類が必要になります。
手続きを手伝うことはできますが、本人に無断で進めるのは避けてください。
親の判断能力に不安がある場合は、成年後見制度など別の手続きが関わってくるので、市区町村の窓口や専門家に相談してください。

Q5. 話が通じないので、キーを隠してしまおうと思っています

気持ちは分かります。
目の前の一回は、それで止まります。

ただ、そのあとが続きません。
「隠された」と分かった時点で、家族は説得する相手ではなく、取り上げる相手になります。
そうなると、この記事に書いた「何が一番困る?」という質問は、もう使えなくなります。

バッテリーを外す、車を勝手に処分する、といった方法も同じです。
止めたい気持ちが強いときほど、今日止めることより、来月もう一度話せることのほうが効きます
どうしても今すぐ運転させたくない事情がある場合は、かかりつけ医や地域包括支援センター、都道府県警察の相談窓口に、家族として先に相談してください。

まとめ:免許返納は説得するのではなく、返せる状態を先につくる

免許返納の話が進まないのは、あなたの言い方が下手だからではありません。
返したあとの暮らしが空欄のまま、決断だけを迫っているからです。

  • 聞き方を変える=「危ないから返して」ではなく「返したら何が一番困る?」
  • 足を先に用意する=日常・年に数回の外出・急な移動の3つを埋めてから話す
  • お金の話を説得材料にする=安全が一番なのは本人も分かっている。踏ん切りがつかないとき、自動車税も車検も乗らなくてもかかることを並べると、決断しやすくなる
  • 車を放置しない=「値がつかない」は思い込み。複数社の無料査定で、売ったお金がそのまま返納後の足の予算になる
  • 運転経歴証明書を忘れない=申請は返納から5年以内。免許証に代わる本人確認書類になる

うちの場合、決め手になったのは正論ではありませんでした。
本人が本当に困っていたことを一つ聞き出して、そこだけを解いた。
ただそれだけです。

そして、まだ終わってもいません。
義父は今も運転を続けていて、いずれ同じ話をすることになります。
だから、うまくいった方法として書くのではなく、途中経過として書きました。

今日できることがあるとすれば、たった一つです。
次に親と話すとき、「返したら何が一番困る?」と聞いてみてください。
そこから先は、答えを一緒に埋めていくだけです。

出典・参考資料

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この記事を書いた人:ロック

 高齢の親を含め、身近に高齢者が多い環境で生活しています。
 若い頃は東証プライム上場企業で経理職に従事し、生命保険の資格[上級生命保険設計士(現シニア・ライフ・コンサルタント)]も取得しました。
 その後、数十年にわたり雑貨の卸売業に携わり、品質・安全性・使いやすさの視点で商品を見てきました。
別事業として古物営業法に基づく古物商許可(公安委員会の許可)も保有し、中古品の売買・流通にも従事しています。
 2005年からは個人で株式投資を続けており、リーマンショックも何とか乗り切りました。いまは国内の高配当株と投資信託が中心で、新NISAも活用しています。
 家族の実体験と公的・医療情報を参考にしながら、高齢者の暮らしに役立つ情報を発信しています。
 ※医療行為の代替を目的とした情報ではありません。

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